劇団CHAN'T第20回公演記念 構成・演出:佐藤 武 女優:柴崎 愛 特別インタビュー

劇団CHAN'T第20回公演「人間失格」。 この記念すべき公演を迎えるにあたり、劇団代表の佐藤と、在籍最年長である柴崎の2人に、これまでの足跡、CHAN'Tがつくる舞台、そして、太宰治の「人間失格」を選んだ理由などなど…稽古場突撃インタビューを敢行してまいりました。 これを読めば、劇団CHAN'Tの「人間失格」がより一層お楽しみいただけるかと思います。ぜひ、ご一読あれ!

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インタビュー登場人物

佐藤 武 柴崎 愛 米田 匡史
佐藤武 柴崎愛 米田匡史

きっかけは、自分達の力でやってみようということから

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米田
20回公演記念ということで、劇団の歴史を振り返ってみたいと思います。まずは劇団立ち上げの経緯を聞かせてください。
佐藤
劇団を立ち上げたきっかけは、ボクが高校3年の3月に都内の小劇場で他の高校の友達だとか、先輩だとかで公演をやって…、で、これが不完全燃焼に終わったんだよね。だから、改めて「やろうか」って話になって、やるのであれば「今度は自分達の力でやってみよう」と、そういう形で劇団になっていった感じかな。
米田
なるほど。
佐藤
でも、肝心の旗揚げ公演が、ぜんぜんすんなりとはいかなくて…。どれくらい本気でやるのか、やるならどういうモノをやるのか、そういった方向性が決まらなかったんだよね。そういうことが、半年以上続いて、何もかもが全然決定しないまま、時間だけが過ぎてね。それで「このまんまじゃいかん、ちゃんとやろうよ。」と。
米田
はい。
佐藤
「あれ?チャント?…」で、劇団CHAN'Tみたいなね。
米田
ん?
佐藤
これ、本当のことだよ。
米田
劇団名の由来ってそうだったんですね。他に候補はあったんですか?
柴崎
「劇団俺は猫ぢゃない」は?
佐藤
それは、最初仮でつけていた劇団名ね。他にも「焼肉定食カルビ付き」とか「ゲネプロって何ですか?」とか。
米田
ひでー名前だぁ(笑)
佐藤
劇団「ゲネプロって何ですか?」第20回公演!
柴崎
下手したらそうなってた訳ね(笑)
佐藤
本当はその頃のCMで「ちゃんとちゃんとの」ってフレーズがあって、そこから「CHAN'T」ってのをいただいたんだよね。字面は当て字で。CHAN'Tってのを提案したのは、長谷川裕子さんというボクの二つ上の先輩。初期の公演に何本か出演してるよ。
米田
旗揚げ公演は、第三舞台の「朝日のような夕日をつれて」でしたが、これに決まった経緯は?
佐藤
「朝日」はボクが高校の演劇部時代に何本か上演しているぐらい凄く好きな戯曲なんだ。さっき言ったみたいに、「どんなモノをやろうか」っていう意思統一が図れない状態で、台本を0から作るのには無理があったので、なら既成の台本で1回やってみて、それから考えて行こうということになったの。あ、旗揚げ公演は無料公演でやったよ。
米田
実際に公演をやってみてどうでしたか?
佐藤
なんか…大変だったかなぁ。
米田
大変でした?
佐藤
うん、ボク以外はみんな学生だったり、収入があってもアルバイトだったし、単純に金が無かったかな。ボクは就職したばっかりだったから、結構負担したってことがあったね。それはもう、冬のボーナスがからっぽになるくらい(苦笑)
米田
しかも、無料公演だし。
佐藤
そうそう。
米田
舞台の出来としては、どうでしたか?
佐藤
覚えてないんだよね。正直言って(笑)当時はビデオ撮影もしてなかったし。でも、「やった!できた!」って記憶はある。あ、公演をするにあたって人を集めていく中で CHAN'Tの創世記における重要なメンバーがいたりしたね。百武(百武勝)とか、森下(森下壮一郎)とか、しーたん(猪股紫紀)とか。そういう意味だと、旗揚げ当初からのメンバーとは、もう20年近い付き合いになるんだよね(苦笑)

台本を書くことのこだわり?

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米田
1本公演を打ってみて、そこから2回、3回公演と続けていくことになったのはどういった経緯があったんですか?
佐藤
実は第1回公演をやってみて、ちょっと疲れちゃってね。結局、第2回公演をやるのは1年後くらいになるんだよね。
米田
そうなんですか。
佐藤
他のメンバーから「またやろうよ」って声が上がって、やるってなったんだけど。第2回公演にやったのが「アガサ少年の事件簿」って作品。これは、台本を0から作ったんだけど、すげえ大変だった。劇団の初期に作・演出をやっていた亜希ちゃん(佐々木亜希)が最初のラフを書いて、それをボクが演劇の戯曲に書き換えて、また亜希ちゃんがこだわりたい所を書き直して、またそれをボクが役者の動線とか考えながら直して…そうやって何度もやりとりをしたね。
米田
そんな大変な第2回公演だったんですが、きっかけは誰かからの「やろう」っていう声だったんですね。
佐藤
いつも誰かの「やりたい」にボクが乗ってるんだよね。そんなダメ座長で(苦笑)
米田
(笑)でもそうやって20回目まで続いているのは座長の中には常にやりたい気持ちがあるからなんですよね。
佐藤
そうだね。
米田
そうやって回数を重ねていくうちに、この劇団で作るものはこういうものだ、っていう方向性が出来上がっていったのは、どの公演からになるんでしょうか?
佐藤
第6回公演の「春にして君の瞳に」かな。この公演は、漠然としていたもの、ぼんやりしていたものにターゲットが絞れたかなって思うね。この公演をやる前に佐々木亜希ちゃんが劇団を続けられなくなって、自分が台本と演出の責任を負うことになって。それでこういうのがやりたいんだけど、って出したのがこの作品で。今思い返しても、今のCHAN'Tに通ずるラフデッサンみたいなものだったんじゃないかと。
米田
この公演から、自分の中で”表現したいもの”がはっきりした、ということでしょうか?
佐藤
”表現したいもの”かぁ…。誤解を招いてしまうような言い方になるんだけど、ボクは「これを絶対世の中に残したいんだ!」と思って台本を作ってなくて。どちらかというと演劇になることで、役者もお客様も、みんなが一瞬一瞬すれ違っていく中で生まれる”空気”が楽しくて、その中を生きていたいと思うんだ。だから、台本を他の人が書くという公演もウチの劇団には結構あって、愛ちゃんの書いた「あい−浮世は夢よ、只狂え…−」とかもそうだね。
柴崎
…。
佐藤
なんで黙ってるの?(笑)
柴崎
いや、ねえ(笑)
佐藤
ボクはね、自分が台本を書くことにこだわりは無いのよ。どんな台本であっても、ボクが演出することでCHAN'Tの芝居になると思っているからね。ある台本を題材にして、そこから生まれるアプローチを楽しみたいというのもあるしね。

演出の責任とは?

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米田
演出に対するこだわりはありますか?
佐藤
演出は”責任”だと思っている。観に来るお客様に対する”責任”だと思ってる。いつも言っていることなんだけど、物語が見たいんだったらそれは本で良くて、また、ビジュアル的なものを見せるんであればそれは映像がある訳で。でも、芝居を観に来るということは非日常だと思う。ちょっとおめかしして、帰りにちょっと良いものでも食べて帰るみたいな、その日をスペシャルな日にするということにボクらは加担する訳じゃない?そのスペシャルな日に観るものがションボリな感じだったら…っていうことだよね。「スペシャルな芝居だったよね!」って思ってもらいたいよね。例えば、ボクがしーたんと芝居を観に行った時とか芝居を観た後は終電が無くなるまでずーっと芝居の話をしてたりするのよ。そういったものにボクらの芝居もすべきだって思っているんだよね。だから演出は観る人を飽きさせたくないし、観る人に衝撃を与えたい。そしてこの衝撃っていうのは、興奮、エキサイティングなものでなければいけないって思ってるんだ。で、そうするためには、演出がそれを仕掛けていかなきゃいけないし、役者がそれに対して応えていかなきゃいけないし、演出はさらにコントロールしなきゃいけない。役者が好きにやる芝居っていうのも、それはそれであるんだろうけど、役者が好きにやったものを取捨選択する演出のコントロールってのは必要だと思うんだよね。
米田
そういった演出のこだわりなどもろもろが固まってきたのが、「春にして君の瞳に」?
佐藤
そうだね。
柴崎
私のお客様の話なんだけど、CHAN'Tを観に来ることを楽しみにしてくれていて、それは、舞台を観ることをきっかけに、「一緒に観に行こう」って普段あまり会わない人と会う機会にしてくれたり、大切なイベントとして毎回楽しみにしてくれてるんだって。芝居を観る前とか後に、ご飯を食べにいったり。
佐藤
そういう意味でボクの持論だけど、「芝居」っていうのは「祝祭」であるべきだって思うんだよね。

やりたい人がやりたいことをやれるだけやる

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米田
愛ちゃんが劇団に入ったのは、いつ頃だったでしょうか?
柴崎
…いつだっけ?(笑)
佐藤
えぇ!?(笑)えっと、「桜の庭の満開の下」だよね。あ、この公演は愛ちゃんは役者じゃなかったんだ。入団当初はスタッフ志望だったから。
米田
あ、そうなんですか。
柴崎
演出がやってみたかったから。
佐藤
そうそう。入団志望して来た頃の熱いメールも残ってるんだけどさ。
柴崎
やめてよ(笑)
米田
愛ちゃんが最初スタッフ志望で入った頃、劇団にはどんな感じだった?
柴崎
みんな楽しそうに取り組んでいたかな。劇団員同士が密な間柄だった気がする。
佐藤
当時の劇団は、ファミリーの臭いがしたかな。芝居だけという付き合いではなく、一緒に旅行に行ったり、徹夜マージャンしたり(笑)
柴崎
稽古後もみんなでご飯食べに行ったり、
佐藤
カラオケ行ったりとかね。そうそう、愛ちゃんが入った時もカラオケに行ったんだけど、愛ちゃんがカラオケで全開にガンガンにやってたのを見て、「この子はどう考えても舞台に上がった方がいいでしょ」って思ったね。「スタッフ志望じゃねえだろ」って。
柴崎
私も映画学校の友達に役者やるって言ったら、「その方が向いてる」「舞台に出た方がいい」って言われた(笑)
米田
最初の公演はスタッフだった愛ちゃんが、役者になって、そのまま劇団を続けているということになったのは、それはこの劇団に何かを感じたからなのかな?
柴崎
うん、ここなら、本当の自分を受け止めてくれるなって思いました。
米田
本当の自分?
柴崎
「こういうことをやりたい」とか「こういうことを考えている」とか、例えば、台本の原案を考えたりして、それを人に見せるのは恥ずかしいんだけど、でも、CHAN'Tのみんなだったら受け止めてくれるって、そういうのはあったかな。あと、自分がカラオケとかではしゃいだりとかも、ね。
佐藤
愛ちゃんが入った頃は、なんか小っちゃかったね、本当に。
米田
小っちゃかったというのは?
佐藤
小さくなってて目線も低くて、身体をすくめて、見上げてるようなそんな感じだった。で、それを見て、ああ、多分この子はそうやって生きて来たんだなって思った。でもね、ウチのスタンスは昔から変わっていないんだけど、「やりたい人がやりたいことをやれるだけやる」っていうのを思っていて、愛ちゃんからは本当は何か発信したいんだろうなって感じてね。それは裏方という発信の仕方ではなくて、もっと表に出したいんだろうなって。誰でもそうなんだろうけど、「芝居やりたい」って人は心がどこかいびつなんだと思うんだ。芝居をやらなくったって生きていく生き方は世の中に一杯ある。冬はスキー、スノボだとか、夏は海だとか。でもいびつな部分を持っている人には、その部分を埋めるために芝居という表現方法にいく。愛ちゃんには、そういう欲を感じたんだよね。だから、結構早い段階で「役者やったら?」って言ってた。
柴崎
うんうん。
佐藤
でも当時の愛ちゃんは、「私なんて」とか「私なんかじゃ」って言っててね…。今の愛ちゃんじゃ想像出来ないけど。今は、「私がやらなきゃ!」みたいなこと言うけどね。
柴崎
(笑)

「人間失格」をいつかやりたいとずっと思っていた

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米田
第20回公演に太宰治「人間失格」を選んだのは、なぜなんでしょうか?
佐藤
「人間失格」を初めて読んだのは、中学生だったんだけど、それから何回も読み返していて、「人間失格」をいつかは芝居でやりたいとずっと思っていたんだよね。
米田
「人間失格」のどういうところに魅力を感じますか?
佐藤
太宰の文学の凄いところは、読んでいるとどこか自分と類似感を感じる。これは色んな評論家も言っているんだけど、太宰の文章は、読んでいるとどこかで「これは俺のことだ」「私のことだ」って思わせるようなのが書かれている。で、ボクもそういう風に「あぁ、これボクだ」とか思うんだよね。劇団を立ち上げて20回目の節目の公演というのもあるし、何かターニングポイントになるものをやっておきたいというがあって、この題材を選びました。
米田
具体的にどの部分にシンパシーを感じますか?
佐藤
「人間失格」の主人公・葉蔵は、よく太宰本人と同一視されて見られていて、太宰にももちろんそういう気性があるんだけど、「人間失格」は基本的には断れない男の話なんだよね。何か言われると断れない、それで痛い目も一杯見る。ボクもそういうところがあって、なんかそこに類似感を感じるかな。
米田
「人間失格」というと、一般的には暗い話というイメージがあったり、小説が元なので舞台に乗せたとしたらどうなるんだという見方もあるのですが、どんな舞台を目指して行きたいと考えていますか?
佐藤
”芝居”をしたいですね。本で読んでしまえば、それはそれで成立するんだけど、そうではなくて、それを演劇としてやることに意味があって欲しい。その意味を突き詰めたいと思って作っています。劇場じゃないと体感出来ないことを探しているし、その仕掛けをたくさん仕掛けいこうと思っています。
米田
ここまでの稽古の具合について、どう思いますか?
佐藤
自分自身の欲を強く感じているかな。「もっとやりたい。もっとやりたい」ってね。今回は、本気。超本気だね。今までも、もちろん公演を提供する側として本気だったんだけど、この一本は、”芝居”をつくる人として本気。

第20回公演「人間失格」への意気込み

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米田
それでは最後に、公演への意気込みを。
柴崎
前回公演「どこかからどこかへ」をご覧いただいて、これまで劇団CHAN'Tを観て来たお客様から、この作品が一番好き!という声をいただきました。毎回、ウチの公演って、「今回の芝居が一番おもしろい」と言っていただける方が多いんですけど、今回の芝居もそれ以上となるように、代表作として名が残るようなものにしたいと思います。
佐藤
いろんな方に言われるですが、「人間失格」をやるという時点で、もう半端じゃない覚悟を背負っているので、ちゃんと背負い切りたいですね。また、今回は作・演出・主演を務めさせていただいていますので、それこそボクが主演をするというのが劇団CHAN'Tではレアなことなので、本当半端じゃない覚悟で挑んでいますね。「人間失格」が好きな人もそうですし、とにかくご来場いただく皆様に「届けたい!」と思っています。
柴崎
「人間失格」に初めて触れる人にも、楽しんでいただける作品にします!
佐藤
よろしくお願いします!
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